妊活している女性にとってお腹の中に新しい命が生まれることほど嬉しいものはないですよね。大好きな介護の仕事にも誇りを持って取り組み、育児と仕事の両立を頑張りたいと思う方も多いのではないでしょうか。

介護職のみならず、政府が国をあげて浸透を図っている産休・育休制度ですが、介護労働安定センターの令和2年度介護労働実態調査によると、「結婚・妊娠・出産・育児のため」に現職を退職してしまう介護士は実に全体の30.8%にも上り、離職理由ランキングの第1位となっています。妊娠しながら介護の仕事を続けられない理由は「肉体的に疲れてしまう」ことや「人間関係が悪化してストレスが溜まった」、「辞めなくてはいけない雰囲気がある」など介護業界特有の理由によるものがほとんどのようです。

実は、産休・育休制度は支給される給付金や免除される社会保険料が月収によって増えていくシステムで、何かとお金が入り用になる妊婦さんにとっては非常にメリットの多い国の制度なのです。そのため、職場の雰囲気や人間関係から産休・育休を取得せずに退職してしまうのは非常にもったいないこと。普段から周りとのコミュニケーションや報連相を密に行い、キャリアもプライベートも諦めることなく産休・育休制度の多くのメリットを享受しましょう!

本記事では産休・育休制度について、支給される給付金、介護業界の現状、産休・育休制度の取得方法など主に制度面にフォーカスしてご紹介していきたいと思います。これから産休・育休制度を利用しようと考えている方のご参考になれば幸いです。

介護職は産休・育休を取得できる?

産休は「労働基準法」、育休は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下、「育児・介護休業法」)という国の法律で定められたれっきとした制度なので、もちろん介護職も例外ではなく産休・育休を取得することができます。産休・育休の詳しい内容や取得条件について詳しく見ていきましょう。

産休とは産前・産後休業のこと

産休とは正式には産前休暇・産後休暇のことを指します。産休は正社員や契約社員、パートやアルバイト問わず全ての働く女性が取得することができます。

産前休暇は出産予定日の6週間前(多胎児の場合は14週間前)から取得することができます。産前休暇は任意なので、必ずしも6週間前から取得しなければならないというわけではなく、雇用主と相談しながら休業に入るタイミングを決めることができます。

産後休暇は出産の翌日から8週間取得する休暇のことで、こちらは本人の意志とは関係なく産後8週間は就業できないと法律で定められています。ただし、産後6週間経過後に医師が認めた場合は請求することにより就業することができます。請求の手続きは会社の定めによりますので、妊娠したら産休や育休の取得について確認しておきましょう。

育児休業制度とは

育休とは育児休業のことで育児・介護休業法で定められている制度です。1歳に満たない子どもを養育する男女労働者は雇用主に申し出ることにより、子どもが1歳になるまでの間で希望する期間、育児のために休業することができます。育休は女性のみならず男性側も取得できる点がポイントです。育休は産休と違い、取得できる条件が決まっています。

育休を取得できる条件
  • 同一の事業主に引き続き1年以上雇用されている(この条件は2022年4月1日より撤廃されます。)
  • 子どもの1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれる
  • 子どもの2歳の誕生日の前々日までに、労働契約の期間が満了しており、かつ、契約が更新されないことが明らかでない

また、以下の要件に該当する場合は育児休業を取得できません。(対象外とする労使協定がある場合に限る。)

  • 雇用された期間が1年未満(この条件は2022年4月1日より撤廃されます。)
  • 1年以内に雇用関係が終了する
  • 週の所定労働日数が2日以下
  • 日雇いの方

なお、育休は以下の場合に限り、1歳6ヶ月まで(再延長で2歳まで)延長することができます。

  1. 育児休業の申出に係る子について、保育所(無認可保育施設は除く。)等における保育の実施を希望し、申込みを行っているが、その子が1歳に達する日(あらかじめ1歳に達する日の翌日について保育所等における保育が実施されるように、申込みを行う必要があります。)後の期間について、当面その実施が行われない場合
  2. 常態として育児休業の申出に係る子の養育を行っている配偶者であって、その子が1歳に達する日後の期間について常態としてその子の養育を行う予定であった方が以下のいずれかに該当した場合
  • 死亡したとき
  • 負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により育児休業の申出に係る子を養育することが困難な状態になったとき
  • 婚姻の解消その他の事情により配偶者が育児休業の申出に係る子と同居しないこととなったとき
  • 6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定であるか又は産後8週間を経過しないとき(産前休業を請求できる期間又は産前休業期間及び産後休業期間)

派遣職員やパート・アルバイトでも取得可能

産休・育休は国の法律で定められている、全ての労働者に与えられている権利なので、雇用形態に関係なく、派遣社員やパート・アルバイトでも取得することが可能です。

妊娠、出産、産前産後休業、育児休業等を理由とした解雇、不利益な移動、減給、降格などの取り扱いを行うことは男女雇用機会均等法、育児・介護休業法で禁止されています。そのため、契約更新がされなかったり、正社員からパートになるよう強要されることは法違反です。事業主との間にトラブルが生じた時は最寄りの都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談してみてください。また、上司や同僚から妊娠・出産等に関するハラスメントを受けた際にも勤務先事業所の管理本部や人事部に相談してみましょう。

産休・育休を取得するには

産休を取得する場合には産休に入る前(通常は出産予定日の6週間前、多胎妊娠の場合は14週間前)から事業所に申請を行います。申請方法は職場によって異なりますので早めに確認しておきましょう。基本的に産前休暇と産後休暇の申請は同時に行います。育休の場合は休業を開始したい日の1ヶ月前に申請することで取得可能です。産前産後休業届、育児休業届と同時に、産休・育休中の社会保険料を免除してもらうための「健康保険・厚生年金保険産前産後休業取得者申請書」と「健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者申請書」の提出も忘れずに行うようにしましょう。出産は何かと手続きが多いライフイベントです。ギリギリになって申請し忘れてしまったということがないように余裕を持って準備しておきましょう。

産休・育休でもらえる手当

産休・育休を取得すると手当として各給付金が支給されます。何かとお金がかかる出産、国の保障としてお金がもらえるのはとてもありがたいですよね。ここでは支給される各給付金の支給元と実際に支給される金額について詳しく見ていきましょう。

出産手当金

出産のために会社を休業し、給料が出ない場合に健康保険から支給される給付金です。出産手当金は出産日(出産が予定日より後になった場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲内で支給されます。勤め先の健康保険に1年以上継続して加入していることが条件です。また、国が運営する国民健康保険に加入している人も出産手当金を受給できませんのでご注意ください。なお、1日あたりの出産手当金は以下の計算式で求めることができます。

【支払開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×2/3

例えば月収20万円の方は産休期間14週間全体で435,806円の出産手当金が支給されます。

出産育児一時金

出産は疾病ではないため、保険適用外となり高額な医療費を全額負担しなければなりません。その出産費用の補助となるように健康保険から出産育児一時金が支給されます。支給金額は原則として赤ちゃん一人につき42万円です。双子以上の場合は出産した赤ちゃんの人数分の金額が支給されます。対象者は健康保険加入者もしくは配偶者の健康保険の被扶養者で、妊娠4ヶ月(85日)以上経過した出産予定の方です。

出産育児一時金の申請及び受け取りには直接支払制度を活用すると、産院などの窓口で高額な費用を支払わなくとも差額のみの支払で済むので、是非出産予定の医療機関に制度を利用できるかどうか確認してみてください。

直接支払制度とは、出産前に被保険者等と医療機関等が出産育児一時金の支給申請及び受取りに係る契約を結び、医療機関等が被保険者等に代わって協会けんぽに出産育児一時金の申請を行い、直接、出産育児一時金の支給を受けることができる制度です。出産育児一時金の支給が協会けんぽから直接医療機関等へ支払われることから、医療機関等の窓口で出産に係る高額な費用を支払う必要がなく、被保険者等にとっては出産育児一時金の支給に係る手続きが簡素化されるなどのメリットがあります。出産にかかった費用が出産育児一時金の額より少ない場合は、その差額が被保険者等に支給されるため、「健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書・差額申請書」の提出をする必要があります。

育児休業給付金

育児休業給付金は育児中の生活を保証するために国が行う経済的支援のことで、勤め先の雇用保険加入者に対して支給される給付金です。

1歳未満の子どもがいる父母に対して支給され、通常は育児休暇期間中の日数に応じて給付金が支払われます。両親ともに取得する場合は1歳2ヶ月、保育園に入所できない、配偶者が死亡・疾病・負傷してしまった/配偶者と離婚してしまったなどの一定の要件を満たす場合は最長2歳まで支給されます。

支給前の条件として育児休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数(原則、日給者は各月の出勤日数、月給者は各月の暦日数)11日以上である完全月(当該完全月が12ヶ月に満たない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上である完全月を含む。)が12ヶ月以上ある方が対象となります。

また、給付期間中の条件として

  1. 育児休業期間中の1ヶ月ごとに、休業開始前の1ヶ月あたりの賃金の8割以上の賃金が支払われていないこと、
  2. 就業している日数が各支給単位期間(1か月ごとの期間)ごとに10日(10日を超える場合は就業していると認められる時間が80時間)以下であること(休業終了日が含まれる支給単位期間は、就業している日数が10日(10日を超える場合は就業していると認められる時間が80時間)以下であるとともに、休業日が1日以上あること。)

が前提となります。支給金額は育児休業開始から180日は[休業開始時賃金日額×67%]、育児休業開始から181日目以降は[休業開始時賃金日額×50%]が支給されます。

例えば、月収20万円の方が子どもが1歳になる時点で職場に復帰する場合、育児休業給付金は育児休業期間中、合計で1,213,875円支給されます。

産休中・育休中のボーナスはどうなるの?

産休中や育休中の給与に関しては無給としている企業がほとんどのようです。ですがこれは各介護施設の決まりにもよりますので、給料が出るかどうか人事課に確認してみても良いでしょう。なお、給料が発生する場合、出産手当金や育児休業給付金の支払額が変わったり、支給条件に満たずに支給されない場合もありますのでご注意ください。

また、ボーナスなどの臨時収入に関しまして、支給日在籍要件や算定期間中での勤続が確認できれば例え産休中・育休中であってもボーナスは支給されます。ただし、ボーナスの支給条件は企業によって異なりますので、産休中・育休中であるために過去実績より支給額が少ないことはあり得ます。気になる方は勤務先の就業規則や給与規定等を確認しておきましょう。

介護業界の産休・育休の現状

国の推進政策も相まって、2021年7月には育児休業を取得した男性が12.65%と初の1割越えを達成し、過去最高を記録したことがニュースになりました。育児・介護休業法の改正による影響が大きいと見られ、今後政府は2025年までに男性の育休取得率の30%達成を目標に掲げ、あらゆる施策を講じているとのことです。

企業に勤める男性全体としては高い水準を記録した育休取得率ですが、業界ごとの数値はどのようなものになっているのでしょうか。2020年の業種別育児休業取得率を見てみると、医療・福祉分野は男性の育休取得率が12.4%と比較的高い数値を記録していることが分かりました。介護労働安定センターが実施した、令和2年度介護労働実態調査における「職場の特徴」においても、「仕事と子育てを両立しながら働き続ける女性が多くいる」と回答した人の割合は全体で38.9%にも上り、介護業界は比較的子どもを持つ女性が働きやすい環境であると言えます。

一方で企業規模ごとに育休取得率を見たときに、事業所の規模が小さくなればなるほど育児休業制度の規定がなく、また取得率も下がっていることが分かりました。これは小規模な事業所ほど一人当たりの業務負担と責任が大きく、代替要員の確保も難しいため、男性の育休取得に積極的になりにくいという事情が関係しています。今後の課題としては産業全体で男性も育児休業を取得しやすい働き方を推進することや、育休取得に伴う助成金について小規模な企業向けの支給を拡大するなどの支援策を講じることも視野に入れる必要がありそうです。

令和3年度介護報酬改定について

介護事業所では施設の規模に応じて配置しなければならない人員基準が介護保険法により定められており、配置しなければならない「常勤の」介護職員の数も決まっています。この時、従来までは1週間に40時間以上の勤務をする者を「常勤」扱いとしてきましたが、令和3年度の介護報酬改定に伴い、短時間勤務を利用し勤務する場合、育児・介護休業法で定める期間中は週30時間以上の勤務で常勤扱いされるようになりました。

施設としても経験豊かな女性介護士が辞めずに時短勤務などを利用して働き続けてくれれば運営に支障をきたすことがないので助かりますし、女性介護士にとっては子どもを育てながら働き続けることによって国や事業所からの優遇措置を受けられるなど多くのメリットを享受できます。この度の介護報酬改定により、家庭の事情でキャリアを諦めなければならない女性が減って、仕事とプライベートを両立できる職場が増えていけば良いですね。

大好きな介護の仕事に長く関わっていけるように

産休・育休制度に関しては年々改定が進んでおり、政府は男女ともに取得率が上がるよう国をあげて取り組んでいます。働き方改革の実現に向けての取り組みも推進され、業界問わず今後ますます子育てのしやすい世の中になっていくでしょう。働く女性には多くの権利が保証されており、産休や育休制度を活用することでキャリアを諦めることなく多くの経済的支援を受けられるのがメリットです。施設側としても出産を理由に仕事を離れることなく、経験豊かな女性介護士が働き続けて施設に貢献してくれることを望んでいます。これを機に産休や育休制度について調べてみて、是非仕事とプライベートを両立できる道を模索してみてください。しかし、とは言え妊娠中の無理は禁物。妊娠中の体調は人それぞれなので、まずは元気な赤ちゃんを産むことを第一に考えましょう。慢性的な人手不足に悩まされる介護職で妊娠することは色々な障害もあるかもしれませんが、体に負担がかからない範囲で生活することを心がけ、貴重なマタニティライフを楽しんでください。