介護職における女性職員の割合は正規職員で66.1%、非正規職員では実に87.3%と圧倒的に女性の多い職場となっています。働く女性が多い現場にとって産休・育休制度を無事取得できるかどうかは非常に気になるところですよね。

新しい命を授かることは本来喜ばしいことですが、常に人手不足が囁かれている介護の現場においては産休・育休を取得できるのか、それとも退職せざるを得ないのか不安に思う方も多いのではないでしょうか。

結論から申し上げますと、産休・育休制度は国の法律で定められている労働者の権利なので、介護職も例外なく産休・育休制度を取得することができます。

しかし、介護職は入浴介助などの体を使う仕事や、夜勤など体力面で大きな負担があるのも事実です。本記事では介護職に従事する女性が妊娠したらやるべきこと、職場への報告の仕方、介護職とマタニティライフとの両立、産休・育休を取得するメリット/デメリットについて幅広く取り上げていきます。今まで頑張って積み上げてきたキャリアだからこそ、ライフステージが変化しても大好きな介護の仕事を続けていきたいですよね。介護職に従事する全ての妊婦さんの参考になれば幸いです。

妊娠したかも?と思ったらまずすること

妊娠の可能性がある場合は市販の妊娠検査薬で確認してから産婦人科で診察を受け、職場の上司に報告するという3段階のプロセスを踏んでいきます。具体的に見ていきましょう。

まずは妊娠検査薬で確認してから産婦人科で診察してもらおう

妊娠の可能性が疑われる場合、多くの方は市販の妊娠検査薬を使って検査するのではないでしょうか。そこで陽性反応が出たら産婦人科に行って詳しい検査をします。医師の診察を受け、子宮外妊娠などの異常妊娠でないことを確認したら、まずは職場の直属の上司に報告をしましょう。

職場の上司には速やかに報告し、同僚には時期を見て報告する

職場の上司はあなたを含め職員の仕事をマネージメントする立場にありますので、仕事内容の配慮を願い出るためにも妊娠が発覚したら速やかに報告をしましょう。

気になる職場の同僚への報告ですが、普通の職場なら妊娠中期の安定期に入った段階で報告することが多いようです。しかし介護職は入浴介助や排泄介助など体を使う仕事が中心のため、母体に負担のない仕事を回してもらうためにも、胎児の心拍が確認できたらすぐに同僚に報告しましょう。

仲間内にきちんと知らせておかないと「あの人ばっかり楽な仕事をさせてもらっている」と人間関係の悪化にもつながりますので、トラブルを未然に防ぐためにも報連相は大切です。なお、報告する範囲(チーム内だけに発表するのか、病棟内全員に発表するのか等)に関しましては介護施設の規模にもよります。

介護職の産休・育休はどうやって取得すれば良いの?

産休・育休は大手企業だけの福利厚生や手当てではありません。国の法律で定められた制度なので介護職の女性も例外なく取得することができます。ここでは産休・育休の取得方法について簡単に見ていきましょう。

産前休暇は施設側に申請すれば、出産予定日の6週間前から取得することが可能です(多胎児の場合は14週間前)。産前休暇は任意なので自身の体調と相談しながら休業に入るタイミングを雇用側と相談しましょう。

産後休暇は出産後8週間取得することができ、こちらは産前休暇と違って必ず取得しなければならない休暇です。赤ちゃんを産んだお母さんは原則出産から8週間は就業することができません。しかし、どうしても早期に復帰したい場合は医師が認めた場合に限り産後6週間を過ぎたら働けることになっています。

また、育休は原則として子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで取得することができます。育休は男性も取得することができ、育休を取得する1ヶ月前までに育休を希望する期間の申請を行います。

ただし、育休は産休と違って取得するには一定の要件を満たさなければなりません。また、特別な事情がある場合には延長も可能です。詳しいことは以下の別記事にまとめましたのでよろしければこちらもご参照ください。

妊娠中でも介護の仕事は続けられる?

せっかく積み上げてきたキャリアだからこそ、例え妊娠中であっても大好きな介護の仕事に携わっていきたいですよね。職場の仲間とうまくコミュニケーションをとることができればもちろん妊娠中でも介護の仕事を続けることは可能です。ここでは妊娠中の業務について気をつけておきたいポイントや働き方を今一度見つめ直すことについて確認していきましょう。

仲間とコミュニケーションを取りながらできる仕事に誠心誠意取り組もう

妊娠しても介護の仕事を続けられるかどうかですが、これは個人差が非常に大きいので一概には言えません。出産する数時間前まで働ける女性もいれば、生まれつき子宮口がゆるく、流産の危険性が高いため点滴を打って横になり絶対安静を言い渡される女性もいます。大切なのはお腹の中の赤ちゃんが無事に生まれてくることを考えて無理はしないこと。特に介護職は入浴介助や排泄介助、着替え、清拭など体を使う業務が中心であるため、今までと同じように働くのは難しいでしょう。重いものを持ったり、走ったりしゃがんだりするような体に負担のかかる動作は極力控えましょう。また生活リズムが崩れる夜勤も妊婦さんには不向きです。妊娠中は体に無理のない範囲で以下の業務に携われないかどうか相談してみましょう。

  • 食事介助・口腔ケア
  • 掃除・洗濯
  • レクリエーションの企画・進行
  • 配膳・食器の片付け
  • 業務日誌や介護記録作成などの事務仕事
  • 見守り

妊婦さんの中にはつわりで臭いが辛いなどの理由で、食事介助や口腔ケアができない可能性もあります。「楽な仕事ばかりしていて気が引けるな・・・」と感じてしまうかもしれませんが、遠慮や思い込みから今の職場を辞める必要はありません。普段から仲間とコミュニケーションを密にとって体調と相談しながら、今できる仕事に誠心誠意取り組むことで報いましょう。

母性健康管理指導事項連絡カードを活用しよう

母性健康管理指導事項連絡カード(以下、「母健連絡カード」)とは主治医が行った指導事項の内容を妊産婦である女性労働者から事業主へ的確に伝えるためのカードです。

事業主は母健連絡カードの記載内容に応じ、男女雇用機会均等法第13条に基づく適切な措置を講じる必要があります。母健連絡カードはあくまでも主治医の指導事項を事業主の方に的確に伝えるためのものなので、母健連絡カードの提出がない場合でも女性労働者本人の申し出等から、その内容が明らかであれば事業主の方は依然として必要な措置を講じる必要があります。

ただし、その場合は事業主は妊婦さんを介して主治医と連絡を取り、判断を求めるなど適切な対応が必要となり、双方コミュニケーションコストがかかってしまうので、母健連絡カードがあった方が間違いにつながりにくくなることは確かです。体力勝負な現場であるからこそ、母健連絡カードを活用して、母体に負担がかからない範囲で仕事に取り組みましょう。

時短勤務や有給消化、休職なども検討しよう

妊娠中の体調は人それぞれですが、比較的体に負担がかからない仕事をしていても、つわりや倦怠感などで体調が悪くなることがあります。そのような場合には無理をせず勤務中でも少し休憩させてもらったり、休みをとることも考えましょう。少しずつ有給を消化したり、出産まで休職扱いにしてもらう方法もあります。具合が悪いのに無理をすると不正出血や早産のリスクにつながる場合もありますのでお腹の中の赤ちゃんのことを第一に考えて動くようにしましょう。

また、出産後の時短勤務に関してですが、令和3年度の介護報酬改定に伴い、短時間勤務を利用し勤務する場合、育児・介護休業法で定める期間中は週30時間以上の勤務で常勤扱いされるようになりました。

施設としても、経験豊かな女性介護士が辞めずに時短勤務などを利用して働き続けてくれれば助かりますし、女性介護士にとっては子どもを育てながら働き続けることによって多くのメリットを享受できます。最後は育休・産休を取得することのメリットとデメリットについて確認してみましょう。

育休・産休を取得するメリット

育休・産休を取得しようと考えている方は、まずはその享受できるメリットについて確認してみましょう。育休・産休は働くママに優しい国の制度です。順番にみていきましょう。

産後も慣れ親しんでいる職場で働くことができる

これが一番大きなメリットと言っても過言ではありません。出産というイベントは女性のライフステージが変化するため、何もかもが新しいことばかりになります。その上職場まで変わってしまったら女性の精神的な負担は想像できないほど大きなものになってしまうでしょう。

出産しても復帰できる職場があるということは精神的にも経済的にも安心できるメリットです。また、出産後ブランクなく同じ職場に復帰することで仕事のスキルを維持することにもつながります。

介護は頭と体の両方を使う仕事なので、一度ブランクが発生すると勘を取り戻すのが難しくなりますし、事業主の方もまた、経験あるあなたに職場に残って欲しいと思っています。是非キャリアも育児も諦めることなく制度やシステムをうまく活用して仕事とプライベートを両立させましょう。

各種給付金を受け取ることができる

妊娠して出産した場合、通常なら①出産育児一時金②出産手当金③育児休業給付金を受け取ることができるほか、④社会保険料の免除⑤養育期間の社会保険料の優遇⑥有給休暇の優遇措置を受けることができます。

出産育児給付金は健康保険から支給される給付金で、赤ちゃん一人につき42万円(双子以上の場合は出産した赤ちゃんの人数分支給されます)、出産手当金は健康保険から支給される給付金で1日あたり標準報酬日額の3分の2相当が支給されます。育児休業給付金は雇用保険から支給される給付金で、育児休業開始から180日は[休業開始時賃金日額×67%]、育児休業開始から181日目以降は[休業開始時賃金日額×50%]が支給されます。

例えば月収20万円の女性が法定通り6週間の産前休暇、8週間の産後休暇、子どもが1歳になるまで育休を取得した場合に給付される金額は合計で[①420,000円+②435,806円+③1,213,875円=2,069,681円]にも上り、かなりの金額が支給されることが分かります。加えて④⑤の社会保険料免除額は月収20万円の方で産休中は84,420円、育休中は281,400円免除され、さらに産休・育休中は「出勤したものとみなす」というルールになっているため、産休・育休中も有給が発生します。これが例えば月収20万円の女性が出産のために退職すると支給される手当金は①の出産育児一時金しか支給されず、残りの②③④⑤⑥の手当てはもらえなくなるので、いかに産休・育休を取得することが働く女性にとってメリットが大きいか分かります。

保育園に預けやすくなる

産休・育休を取得していると、いざ働き始めた際に保育園に入りやすくなるのもポイントです。住んでいる地域の自治体にもよりますが、出産を理由に退職してしまうと無職扱いになり保育園に入るのがかなり難しくなってしまいます。その点、父母ともにフルタイムで勤務していれば点数も高くなり、保育園などの預け先も決まりやすくなります。保活を行いやすいという面からも、仕事を辞めずに産休・育休を取得することは妊婦さんにとって大きなメリットであると言えるでしょう。

育休・産休を取得するデメリット

育休・産休を取得することによって大きなメリットが得られる分、大変な思いをすることもあります。ここでは多くの働くママが抱える悩みについて順番に見ていきましょう。

人間関係が変化する可能性がある

産休育休の取得実績がない職場だと、出産のために長期間休業することへの理解を周りから得られない場合があります。妊娠中は体に負担のかかる業務から外してもらったり、比較的簡単な仕事を回してもらうことで、人によっては「あの人ばかり楽をしていてずるい」などという反感を買うこともあるようです。

収入が減る場合がある

母体の健康を第一に考えるためには仕方のないことですが、妊娠中の体調の悪化により有給休暇の消化や休職、時短勤務をすることで全体的な収入が減る場合があります。

例えば事業主と相談した結果、正規職員から非正規職員に勤務形態が変わることで収入が減ることも考えられますし、体調を考慮して日勤のみの勤務になった場合でも夜勤ありの場合と比べて収入が下がることがあります。

また、長期間休業の間に施設の運営方針の変化や人事異動があり、復帰後思うようなポジションで働けないことも十分に考えられます。将来がどのような状況になっても介護士として働いていけるように、復帰後の家事・育児分担をパートナーと話し合ったり、介護福祉士(ケアマネージャー)になるべく資格取得の勉強をするなど具体的なキャリアプランを組み立てておきましょう。

いずれにせよ、子どもが生まれたら女性とそのパートナーは育児と仕事の両立を迫られることになります。しばらくは育児に専念したいから頃合いを見て復職する・育児しながらでも柔軟に働けるように訪問介護員の道を目指す・育児家事をしながら正規職員として働き、ゆくゆくは管理職を目指すなど、どのようなキャリアを目指すのか出産を機に、家族ともじっくり相談して決めるようにしましょう。

やむを得ない休みにより肩身が狭い思いをすることもある

仕事と育児を両立させる場合、子どもの発熱などにより突発的なお休みや早退などのシフト調整が必要になる場合があります。子育てに理解のある職場や人員体制が整っている職場であれば問題ありませんが、そうでない場合はお休みをもらうたびに申し訳なく思ったり、肩身の狭い思いをすることになるかもしれません。

同じ職場の仲間にフォローしてもらった時は感謝の心を忘れずに

これまで妊娠したらまずやるべきこと、妊婦さんが介護の仕事をする際に気をつけるべきこと、育休産休の取得方法、育休産休を取得することのメリットデメリットについて見ていきました。一番大変なのはもちろん妊娠した女性自身ですが、あなたのために周りがフォローしてくれていることも認識しておきましょう。特に介護などの医療の現場はチームでの連携が欠かせない職場でもあります。あなたが免除されている力仕事はチームメンバーが代わりにやってくれていますし、急なお休みをもらうことでシフト調整をしてくれる同僚もいます。あるいは事業主はあなたに負担がかからないように新しい職員を募集するかもしれません。いずれにせよ職場に一定の負担がかかるのは事実なので、常に感謝の心を忘れずに復職したら今までの分を恩返しするつもりで誠心誠意仕事に取り組みましょう。国の保証された制度だからと言って当然のように休んでいると周りは良い思いをしません。お互いに助け合いの心で業務に励むことができれば理想的ですね。