この記事の要約

移乗介助の基本的な流れと注意点について解説しています。移乗は、利用者さんの状態により、様々な方法がありますが、まずは基本的な流れを確実に把握しておきましょう。また注意点についても、具体的に解説を記載しています。移乗は介護士であれば、1日に複数回行う、非常に基本的な業務です。しかし基本をしっかりと理解して、実践できていなければ、事故に繋がる危険性も高まります。起こりうる事故を予測し、未然に防ぐための行動を自然に取れるような心構えを忘れずにケアにあたりましょう。最後にやってはいけない介助方法もご紹介していますので、併せてご確認ください。

介護現場で働き始めたばかりの方やこれから実習に行かれる方などの中には、移乗の手順やコツを知っておきたいと考える方もいるでしょう。移乗は、介護士として働き始めると、一日で何度も行う機会のある非常に基本的な介助の1つです。

しかし、時には自分よりも身体の大きな利用者さんの介助をする場合など、コツや慣れが必要な場面もあるでしょう。

そこで本記事では、移乗介助の基本的な手順から、注意点なども併せて解説します。

筆者の介護現場での経験も交えながらご説明しますので、ご自身のケアに少しでも活用していただければ幸いです。

移乗介助の基本手順

それでは早速、移乗介助の基本的な手順を解説します。なお、ここではベッドから車椅子に移る場合を想定して解説します。

要介助者の状態により、応用的なやり方はいくつもありますが、まずは基本を確実に理解しましょう。

移乗の手順は、簡単に表すと次の5つのステップになります。

  1. 要介助者を起こし、端座位になってもらう
  2. 浅めに腰掛けてもらい、足を手前に引いてもらう
  3. 要介助者の腰の辺りを持ち、自分が移乗介助しやすい位置まで引く
  4. 要介助者の上半身をおじぎをさせるような格好で一旦下に投げてから持ち上げ、方向転換する
  5. ゆっくりと座り、必要に応じて深く座り直す

ご自身で体重を支えきれない方は、恐怖心がある場合もあるため、適宜安心させる声かけを行いながら、上記の動作をするのがポイントです。

移乗介助の注意点

続いて、移乗介助の際の注意点について解説します。手順ごとに細かな注意点は様々ありますが、移乗介助を行う際に最も意識すべき点は、常に最悪を想定する意識を持つことです。

つまり、起こりうる事故を想定し、その防止のための行動を取れるようにしておくということです。

例えば、少しの介助で立ち上がれる方の介助を行う場合も、膝折れに注意する必要があります。また、座位が保てる方であっても、ずり落ちや転落に注意を払う必要があります。このような心構えが「事故を想定する意識」の例です。

介護の重要な視点の1つに自立支援がありますが、要介助者の安全は必ず第一に考えなければなりません。何が起きても安全を確保できる体制にしておくことが大切です。

移乗介助の一連の動作をスムーズかつ完璧に行うポイント

では、安全を確保するためにはどのような対策が行えるでしょうか。移乗介助が安全かつスムーズにいくための細かいポイントを抑えておきましょう。

ベッドと車椅子の角度と位置

ベッド→車いす・車いす→ベッドどちらの場合も、ベッドと車椅子は30度程度の角度が理想とされています。自分と要介助者の体格差などによっても最適な位置は人それぞれ変化しますので、自分が介助しやすく、要介助者が恐怖を感じにくい位置を見つけましょう。

車椅子の状態を確認する

アームサポートやフットサポートが動かせるタイプの車椅子であれば、要介助者を起こす前の準備として、外したり、危険がない位置に動かしたりしておきましょう。こういった一手間が、剥離や内出血といった怪我を減らすポイントです。

立ち上がりやすい体制を整える

立ち上がりやすい体勢を整えられていると、介助も楽でスムーズに進みます。

自分が普段、立ち上がる動作をするときはどういった体の動きをするのか一度確認してみるのもいいでしょう。足の位置を手前に引く、上半身を倒しておじぎのようにして立ち上がるなど、一度ご自身で立ち上がる時の動作を細かく確認してみると分かりやすいかもしれません。

特に、軽介助で立ち上がれる方の介助であれば、この動作を補助してあげる意識があると非常に立ち上がりやすく、移乗がスムーズに行えます。

(麻痺がある場合など)軸足を健側にする

麻痺がある方の移乗を行う際に特に注意したいのは、軸足です。力が入りづらく、思うように動かせない方を軸足にして移乗しようとすると、うまく方向転換できない場合もあり危険です。くわえて、要介助者が恐怖を感じてしまう場合もあります。軸足は健側が基本と覚えておきましょう。

移乗後、深く座れているかを確認する

移乗が完了すると気を抜いてしまうかもしれませんが、最後に気を付けるポイントがあります。それは、車いすにしっかり座れているかを確認すること。

座りが浅かったり、傾いて座っていたりすると車いすからのずり落ちや転落の危険性が高まります。まっすぐ、深く腰かけられているか最後にしっかりと確認しましょう。

重い方の移乗を行う際のポイント

自分より体格が大きい方や、体重がある方の移乗方法については、方法を模索したり、悩んだりする介護士が多いかと思います。

体格差がある場合の移乗はいくつか方法があり、解説動画もYouTubeなどで視聴することができるでしょう。しかし、可能であれば「無理して1人で介助しようとしないこと」が基本です。大きな体格差があると万が一、バランスを崩した場合などに、自分と要介助者の安全を確保しきれません。介護現場に余裕がなく、1人で移乗せざるを得ない場合もあるかもしれませんが、リスクを伴うことを忘れてはいけません。

なお、具体的な方法については、動画解説などたくさんあるので、どうしても必要な場合は、自分に合った方法を探すのがおすすめです。試してみたい方法が見つかった場合は、必ず補助に入ってもらいながら練習するようにしましょう。

移乗介助による腰痛を起こさないためのコツ

腰痛は介護士の職業病と言われるほど、腰痛に悩まされている人は非常に多いです。実際、コルセットを着用しながら仕事をする職員も少なくありません。

そこで、腰痛をできるだけ予防するためのコツを2つご紹介します。

ベッドの位置はこまめに調整する

細かい事ですが、ベッドの高さを都度調節するのは、腰痛予防に非常に有効です。

自分の身長や出せる力の大きさによって最適な高さは人それぞれ。合わない高さでの移乗を繰り返すと腰痛の危険性が高まります。ギックリ腰のきっかけにもつながるため、めんどくさがらず、ご自身の背丈に最適な高さで移乗を行いましょう。

ボディメカニクスを活かす

ボディメカニクスとは、最小限の力で介護ができる介護技術のことを指します。骨や関節、筋肉などが動くときの力関係を理解して活用する方法です。これがわかっていると、身体に力が入らないような方の移乗も比較的ラクに行えます。もし、ボディメカニクスについて理解が浅い場合は、一度学んでみることをおすすめします。

やってはいけないNG介護【移乗編】

最後に介護現場でよく見かける、やってはいけない介護を移乗介助に限定して2点ほど解説します。

まず1つは、腕を引っ張って要介助者をベッドから起こすこと。痛みを伴う場合があり、最悪の場合、肩などを脱臼する危険もあります。必ず背中を支えながら起こすようにしましょう。

もう1つは持ち上げたり、座り直したりする際に、ズボンを引っ張ることです。介護現場でよく見かける方法ではありますが、下着が食い込んで不快感を与えやすいためNGとされている介助方法の1つです。ただし、安定感があるためか、ごくたまに要介助者ご本人が希望される場合もあり、その際は希望に沿っても良いでしょう。

まとめ

本記事では、移乗介助の方法と注意点などについて解説を行いました。要介助者の身体の状態やご自身との体格差などによって適切な移乗方法は異なりますが、基本を確実に抑えたうえで、それぞれの要介助者に合った方法を考えていきましょう。

また、自分1人で完結させようとせず、一緒に働く他の介護士とも連携をとりながら業務を進めていけると、より良い移乗方法を話し合う機会も自然に生まれます。

本記事を参考にしつつ、フロア内で協力しながら、より良いケアを目指していただければ幸いです。

ABOUT ME
椿 るい/現役介護福祉士ライター
介護業務に従事して9年目の介護福祉士。 介護現場でのリアルを伝えるため、Webライターとしても活動中。 特養や精神科での勤務経験を活かし、事実に基づいた「生の声」をお伝えします。また、ユニットリーダーなどの役職の経験や常勤・派遣・夜勤専従派遣といった複数の働き方の経験もあるため、介護士としての働き方や給与の問題は特に経験と知識が豊富です。