介護士とは日常生活を送ることが困難な高齢者や身体・精神が不自由な障がい者が安心して暮らせるように身の回りのお世話や相談援助等のサービスを提供する人々のことです。

ポストコロナ時代において雇用不安が叫ばれる中、資格や経験次第でキャリアアップや待遇改善が期待できる介護士は、今人気の職業として注目されています。介護の仕事はセカンドキャリアとして始める中途採用の方が多いので、男女平均40.7歳と比較的年齢層が高くなりやすいのですが、学歴・職歴不問な上にプライベートの時間もきちんと確保できるので、若い人にこそおすすめの仕事でもあります。現代日本の30代以下の介護職員はわずか19%であり、介護業界もまた、体力があって今後の伸び代が期待できる若年層を求めています。

今回は需要が高まってきている介護士という仕事について仕事内容ややりがい、主な就職先や介護士として働くことのメリットまで幅広くご紹介します。

なお、介護士という名称について、介護福祉士(国家資格保有者)の略称として使われることもありますが、本記事では「介護職に携わる全ての職員」を指す言葉として捉え、ご説明していきます。

介護業界の実態

「人手不足」「仕事がきつい」などのイメージが強い介護職ですが、実際のところはどうなのでしょうか?「公益財団法人介護労働安定センター」が令和2年に発表した「介護労働実態調査」から、介護士が働く現状について見てみましょう。

まず、人手不足は確かであり、65.3%の施設・事業所が「人手が足りていない」と感じています。

従業員の悩みの1位も「人手が足りていないこと」という結果に。一般の仕事で抱えやすい賃金の安さや人間関係の悩みよりも、人手不足が介護士の負担を増やしていることがわかります。また、男女比のバランスも優れているとは言い難く、「男性20.5%」「女性71.2%」という比率です。

 
なぜ人手が足りておらず、そのうえ男性の数が少ないのでしょうか。原因の可能性として、介護職=低賃金&重労働というイメージがついていることが考えられます。

厚生労働省の「 令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」によると、介護職の給与平均は年収で406万円ほど。日本人の平均収入よりはやや低いと言えますが、介護職はシフト制であるため、残業はそれほど多くありません。また、残業に関しては、株式会社リクルートキャリアの『HELPMAN JAPAN 「介護サービス業 職業イメージ調査 2014」』によると、「半数以上の事業所は残業がないことが世間一般に認知されていない」という結果が出ています。

プライベートを充実させられ、人手不足以外のストレスも少ないのであれば、「介護職の年収=安い」とは言い切れません。さらに、介護職が重労働と思われる理由の衛生面、利用者の身体的介助については、知識や工夫次第で改善できます。

Further More

近年では、大企業や国が介護サービスに力を入れ始めています。これまでの介護職にまとわりついたマイナスイメージが払拭され、労働環境の改善や賃金アップがかなうのも、遠い話ではないでしょう。

日本における介護の基本方針

介護保険や介護に関わる制度は、2000年に入ってから大きく変化しました。起点となったのは、「社会介護保険法」の制定です。社会介護保険法ができるまでに、日本の介護業界にはさまざまな壁がありました。

1962年に最初の訪問介護サービスが創設され、その翌年には老人福祉法が制定。同年から特別養護老人ホームや訪問介護法が整えられ、1970年代になるとショートステイ、デイサービス事業も開始されました。

これらの法政策は、年々加速していた高齢化社会に対処するためのものです。しかし当時の福祉政策では充分とは言い切れず、医療費の負担や介護体制に利用者、介護職の両者が限界を感じ始めていました。

その後、1990年代までさまざまな案を練り、繰り返し対策を発案します。そしていよいよ2000年に介護保険法が施行。介護保険法によってこれまで問題視されていた介護・医療費用の負担が、軽減されました。また、介護職員は利用者の「お世話をする」という視点ではなく、利用者の「自立を促す」ようにサポートすること、さらに必要なサービスを総合的に受けられることなどが、介護保険法の理念として掲げられています。

介護士ってどんな仕事をするの?

介護士の仕事は、高齢者の生活のサポートと自立を促すのが目的です。2つを両立するために、「身体介護」「生活援助」「その他の支援」の3つの仕事を行います。

身体介護とは排泄や入浴、移動を助けるなど、利用者の体に触れる介護です。スムーズに動作を行えるよう、利用者と自分自身の体の動かし方に関する知識が必要になります。そのため、身体介護は有資格者でないと行えない仕事です。

生活援助は掃除や洗濯、ご飯を作るといった、日常生活に必要な家事炊事全般です。利用者の体に触れないのが前提です。資格がなくてもできます。

その他の支援では身体介護と生活援助の内容以外が挙げられます。具体的には、メンタル面のケアやレクリエーション、介護保険の相談や利用者の家族との関わりなどです。

このように介護士の仕事は多岐に渡り、施設や事業所、利用者が変われば仕事内容も変わります。

介護士の仕事のやりがい

介護士の仕事は、「きつい」「汚い」「危険」の3Kが揃っている、と考える方も少なくないでしょう。しかし、これらはあくまで世間一般のイメージです。実際に介護現場で働く人の意見に耳を傾けると、3Kのネガティブポイントよりも、やりがいや楽しさを実感している人が多くいます。

介護は、人と深く関わる仕事です。利用者の生活を支え助けの手を差し伸べることで、介護士は利用者の人生において、かけがえのない存在になっていきます。自分の存在価値を認めてもらい、肯定感を得られる仕事は、そう多くありません。利用者からの「ありがとう」に、疲れや辛ささえも吹き飛ばしてしまうほどの喜びを感じる介護士も、多くいます。

とはいえ、いくらやりがいを感じても仕事がきつければ続けるのは困難です。しかし介護の3Kは、体の動かし方を学ぶことや清潔や安全性を保つ工夫をすることで、解消できます。

Further More

介護の仕事は、決して事務的なものではありません。人と接して、学んでいく仕事です。介護士としての経験を多く積んでも、利用者一人一人から新たに得られるものがあり、常に新鮮で刺激的。介護職員の平均年齢が高いのは若年層が足りていないだけでなく、やりがいを感じた職員が「長く続けたい」と思うから、というのもあるかもしれませんね。

介護士として働くメリット

ネガティブなイメージを持たれやすい介護職ですが、実際に働いてみると実感できるメリットが多くあります。

働き方や稼ぎ方にさまざまな選択肢がある

介護士の募集は多く、仕事形態もさまざまです。しかし基本は、どこの介護施設・事業所でもシフト制を取り入れているのが主流です。そのため、時間に縛られない働き方が実現します。

たとえば効率よく稼ぎたいのであれば夜間シフトを申し出たり、学業と両立したいのであれば、パートやアルバイトとして短時間勤務の相談に乗ってもらったり、といったことも可能です。

自分に合った稼ぎ方や働き方が選択できるため、ライフスタイルに変化があっても柔軟に対応できます。

性別・年齢に関係なくキャリアアップしやすい

介護職において、キャリアアップに年齢や性別は関係ありません。

実務経験をこなし、勉強をして資格をとって、施設・事業所において欠かせない人物となれば、年齢や勤続年数に囚われずに評価されます。

雇用が安定している

介護業界は人手が足りていないこともあり、どの施設・事業所でも職員は重宝されます。そのため転職や就職もしやすいです。

結婚や出産でブランクがあったり、まったく関係のない業界で働いていたりしても、介護業界への再就職は難しくありません。

手に職を付けられる

介護職は日本中どこにいても、いつの時代であっても必要な職種です。また、仕事で得た知識が、将来の家族の介護で役立つこともあります。

介護職のように職に溢れることもなく、実生活でも役立てるスキルを獲得できる仕事は、そう多くないでしょう。

自宅の近くで働ける

介護施設・事業所は日本全国にあります。都内や大都市に限らず地方にも点在しているため、自宅近くの勤務先も見つけやすいです。

また、訪問介護であれば、自宅近くの高齢者の家を選択することもできます。

介護士の主な就職先

介護士の仕事場は、施設のほかに個人宅や病院などが挙げられます。

それぞれ求められる仕事内容が異なるため、どの現場が自分には合っているのか、違いを見た上で判断しましょう。

施設型

介護施設は大きく分けて「入所型」「グループホーム」「デイサービス」の3種類があります。

入所型は有料老人ホームや特別養護老人ホームなどです。24時間体制で利用者のサポートをします。基本は身体介護が中心ですが、施設の種類によっては必要な介護の度合いも変わってきます。

「グループホーム」は認知症の利用者に特化した施設です。認知症への深い理解が必要なのと、スタッフ人数は少ないという特徴があります。

「デイサービス」は通所型の介護施設です。介護施設側で送迎を行い、利用者は施設内でレクリエーションや日常動作訓練、食事や入浴などを済ませて帰宅します。利用者の自立を促すと同時に利用者の家族も離れている間にリラックスができるため、双方のQOL向上がかないます。

利用者の家が仕事場となるのが、「訪問介護」の仕事です。訪問介護では利用者の家に行き、必要な身体介護と生活援助を行います。介護の内容は利用者の要介護レベルによって異なりますが、事前に決められています。

Further More

お手伝いさんと勘違いをされやすい仕事ですが、訪問介護者ができるのは、あくまで暮らしのサポートまでです。「雑草を抜いてほしい」「家具の配置を変えてほしい」といった内容は、仕事に含まれていません。

 
介護者を思いやる気持ちから、つい承諾したくなるかもしれませんが、後にトラブルになりやすいです。個人宅で訪問介護職員として働く場合、仕事の線引きはしっかり行いましょう。

医療機関

病院でも介護士が求められています。病院勤務というとお堅いイメージがあるかもしれませんが、無資格・未経験でもOKとして介護士を募集しているところも多くあります。

仕事内容は入院患者のサポート以外に、カルテや医療器具の管理といった、看護師の業務も手伝います。医療の知識もある程度求められる反面、入院患者の状態を見極める介護力や観察力も求められる仕事場です。

介護士はこんな人におすすめ

介護士に向いているのは優しい人や相手の立場に立てる人などが挙げられます。さらに、柔軟な働き方ができることから、プライベートの時間を充実させたい人にもおすすめです。

一方で不向きなのは、効率性重視の人や神経質な人です。介護職は利用者の立場になって動かなくてはならないため、思ったように仕事が進まないこともあります。また、身体介護は相手の体に触れるため、神経質な人はストレスを感じてしまうかもしれません。

介護職でもっとも大切なのは、利用者を思いやる気持ちです。利用者が楽しく快適に過ごせるよう、相手の目線に立つことを苦痛に思わない人であれば、介護仕事にやりがいを見出せるでしょう。

まとめ

実際に介護職に就いてみると、想像していたよりもマイナス点が少なく、世間が持つネガティブなイメージとは差異があることに気づけます。

人を助け、人に感謝される介護職は、つらさや大変さ以上にやりがいを実感できる仕事です。キャリアを積んで資格を取得すれば、仕事の幅もさらに広がり、より介護職を楽しいと思えるでしょう。

介護職に興味があったり就職してみようか迷ったりしている方は、ぜひ介護の世界に飛び込んでみてください。きっとイメージしているよりも楽しく、豊かな日々を過ごせるはずですよ。