介護士の就職先には医療機関や訪問介護事業所、デイサービスなど多くありますが、中でもメインの就職先と言ったらやはり老人ホームでしょう。老人ホームとは高齢者が入所する施設の一般的な呼称のことです。

日本で最初の老人ホームは、イギリス人の聖公会婦人伝道師であったエリザベス・ソーントンが1895年に東京港区の民家で始めた「聖ヒルダ養老院」だと言われています。このように民間や宗教施設に留まっていた養老院が国の制度上に位置付けられ、1950年に生活保護法が制定されたことを機に、「養老院」という呼び名が「養老施設」に変更され、さらに1963年に「老人福祉法」が制定されたことによって「老人ホーム」という呼称が正式名称になりました。

老人ホームと一口に言っても、運営母体や入居条件、受け入れ可能な介護度によって大きく分けて11種類存在し、さらに定義が細かく分化しています。入居している高齢者の介護度が異なるので、施設によって提供する介護サービスや日勤・夜勤などの働き方が大きく変わってきます。これから介護士を目指そうと考えている方は是非施設ごとの特徴を掴んで、どの介護施設だったら自分の強みを一番発揮できそうかリサーチしてから就職活動を始めることをおすすめします。本記事では介護施設の分類と、11種類ある各介護施設の特徴についてまとめてみました。早速詳しく見ていきましょう。

介護施設は大きく公的施設と民間施設の2つに分けられる

介護施設は11種類以上存在すると前述しましたが、まずは介護施設の分類を分かりやすくするために、公的施設と民間施設の2つに大きく分けてみましょう。

公的施設とは国や地方公共団体、医療法人等が設置主体となっている介護施設で「介護保険施設」とも呼ばれます。介護度の重い方や低所得者層など、在宅介護が困難な方を支援することに重点を置いています。民間の介護施設よりも安い費用で利用できますが、人気があるため空きがなく入居待ちが長い点がデメリットです。民間施設と比べてレクリエーションなどのイベントや娯楽が少ない傾向にあります。

一方民間施設とは民間企業が運営する介護施設のことで、高齢者のニーズを満たすことに重点が置かれ、レクリエーションやイベントも多種多様なものが用意されています。価格帯は施設によって大きく変わるので、高齢者の方のニーズや経済状況に合わせて入居先を選べるというメリットがあります。費用が高いところを選べば、より自分の身体に合った対応や充実した介護サービスを受けられるので、QOLの高い生活を送ることができます。

公的施設

公的施設には介護保険3施設と呼ばれる特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設の他に主に自立状態の方を対象にした養護老人ホームと軽費老人ホームがあります。これらについて詳しく見ていきましょう。

施設の種類 受け入れ可能な介護度 認知症の受け入れ 認知症の受け入れ(重度) 看取り 入居待ちの期間
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) 要介護3〜要介護5 難しい
介護老人保健施設 要介護1〜要介護5 難しい場合も
介護療養型医療施設(介護医療院) 要介護1〜要介護5 難しい場合も
養護老人ホーム 自立のみ × × × 難しい
軽費老人ホーム(ケアハウス) 自立〜要介護5程度 × × 難しい場合も

https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/

https://kaigoworker.jp/column/393/

https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/other/care_house/

https://www.cocofump.co.jp/articles/kaigo/81/#7

https://www.pref.yamanashi.jp/kt-hokenf/documents/h26report.pdf

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は略して特養とも呼ばれ、「要介護高齢者のための生活施設」を基本的性格として謳っています。要介護3以上の認定を受けている方が対象の施設で、要介護1〜2の方の入居には自治体からの特別な許可が必要となります。

有料老人ホームと同様にレクリエーションの提供もありますが、比較的重度の要介護状態の方や認知症を患っている方が多くを占めるので、提供する介護サービスは食事・入浴・排泄介助などの身体介護、清掃・洗濯などの日常的な生活支援の比重が高くなります。

看護師は日中は勤務していますが夜間の配置義務はないため、夜間も医療ケアを必要とする方の対応は難しく、入居できない場合もあります。入居費用が介護保険でまかなえるので費用が安く、終身利用も可能なので非常に人気が高い施設です。

入居はしたいと思ったらすぐに入れるわけではなく、介護度や家族状況なども考慮して必要度が点数化され、緊急度の高い方が優先されます。特養の待機者は非常に多く、2019年4月1日時点で全国の特養の待機者は29.2万人いることが分かりました。地域によっては入居まで数年かかるところもあり、非常に入居が難しい施設となっています。

2002年からはユニット型が制度化され、全て個室で10人程度を1つのユニットとする少人数の介護が推奨されており、より手厚い介護が受けられるようになりました。

介護老人保健施設

介護老人保健施設は「要介護高齢者にリハビリ等を提供し在宅復帰を目指す施設」を基本的性格として掲げており、病院退院後、在宅復帰が困難な場合に医療ケアやリハビリを受けることができる介護保険施設です。医師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)などが常勤しているので質の高いリハビリを受けることができます。入所者の在宅復帰を目指した施設であるため、他の介護施設と比べて入所期間が短いことが特徴です(原則3〜6ヶ月)。3ヶ月ごとに退所判定が行われるので長期の利用や終身利用はできません。その代わり入所待ちの期間は短く、初期費用もかからないので民間の施設よりサービス費用が抑えられる点がメリットです。

介護療養型医療施設(介護医療院)

介護療養型医療施設とは医療が必要な要介護高齢者の長期療養を行う施設で、在宅では難しい日常的な医療を必要とする高齢者向けの介護保険施設です。医療法人が設置主体となっていることがほとんどで、食事・入浴・排泄などの身体介護の他に医師や看護師による医療的管理、理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションが受けられます。

医師の配置が入居者100人あたりに1人を義務付けられている医療機関で、医療ケアが充実している点が特徴です。完全個室ではなく、パーテーションで区切られた相部屋であることが多く、プライバシーの確保には注意が必要です。厚生労働省は当初2011年度末をもって「介護療養型医療施設」の廃止を決定していたのですが、移行先である介護老人保健施設への転換がうまく進まなかったことから廃止期限を延長し、2023年度末に完全廃止されることになりました。以降は「介護医療院」として存続していくことになります。

養護老人ホーム

特別養護老人ホームとは別に、「養護老人ホーム」という施設もあります。名前が似ているので同じような施設だと思い込んでしまう方も少なくないかと思いますが、全くの別物です。

養護老人ホームは身体的、精神的、環境的、経済的に困窮している高齢者を一時的に受け入れるための施設で、例えば年金を受給できなかったり、在宅で生活ができない高齢者が対象となります。特養や通常の老人ホームが施設と契約することで入居するのに対し、養護老人ホームは市区町村長によって決定を受けた人が入所することになります。

養護老人ホームは介護施設ではないため、介護サービスを受けることができません。入居者が自立した生活を営み、社会的活動に参加するために必要な指導及び訓練その他の援助を行うことを目的とする施設と定義されているので、長期的に利用することはできません。

軽費老人ホーム(ケアハウス)

軽費老人ホームとは自立した生活に不安があり、身寄りのない高齢者が低価格で入居できる老人ホームです。設置主体は地方公共団体や社会福祉法人、知事許可を受けた法人などが中心です。軽費老人ホームは食事を提供するA型、食事を提供しないB型、ケアハウスのC型に分かれますが、A型とB型は1990年以降は作られていません。入居条件はA・B型の場合は60歳以上(夫婦の場合はどちらか一方)で身の回りの世話ができて月収34万円以下の方に限ります。今回は今後主流となるC型であるケアハウスについて詳しく見ていくことにします。ケアハウスは自立した高齢者を対象とした施設で、さらに一般型と介護型に分かれます。

ケアハウスの一般型は生活に不安を抱えた60歳以上の方が対象で、食事提供と生活サービスが受けられます。介護サービスを受けたい場合は外部事業者の在宅サービスと契約して介護サービスを受けます。軽費老人ホームA型・B型とは違い入居条件の所得制限はありませんが、入居金や家賃などの費用が発生します。

一方ケアハウスの介護型は、65歳以上で要介護1以上の方を対象としており、食事提供や生活サービスに加えて施設で介護サービスまで受けることができます。

民間施設

民間施設には主にサービス付き高齢者向け住宅や介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、自立状態の方を対象にした健康型有料老人ホーム、認知症を持つ高齢者のための認知症高齢者グループホーム、アクティブなシニアライフを楽しみたいという高齢者のための高齢者向け分譲マンションなどがあります。順番に詳しく見ていきましょう。

施設の種類 受け入れ可能な介護度 認知症の受け入れ 認知症の受け入れ(重度) 看取り 入居のしやすさ
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) 自立〜要介護5程度 簡単
介護付き有料老人ホーム 自立〜要介護5 簡単
住宅型有料老人ホーム 自立〜要介護5 × 簡単
健康型有料老人ホーム 自立のみ × × × 難しい
認知症高齢者グループホーム 要支援2〜要介護5 × 難しい場合も
高齢者向け分譲マンション 自立〜要介護5 × × 簡単

https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/

https://www.minnanokaigo.com/guide/type/

https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/house/service/

https://www.unimat-rc.co.jp/media/types-of-nursing-homes

https://www.cocofump.co.jp/articles/kaigo/162/

https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/house/mansion/

https://www.cocofump.co.jp/articles/kaigo/179/#3

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

サービス付き高齢者向け住宅は、60歳以上もしくは要介護/要支援認定を受けている60歳未満の方を対象としたバリアフリー構造の住宅で、契約形態は賃貸契約になっています。介護士・看護師等の有資格者が常駐し、安否確認と生活相談サービスが提供されます。

サ高住にも一般型と介護型の2種類が存在し、一般型で介護を受ける場合は、外部事業者による居宅サービスを利用することになります。介護型(特定施設入居者生活介護の指定を受けているところ)の場合は、担当の介護職員が介護サービスを提供します。

サ高住は介護施設ではなく、あくまで住宅として扱われるので、介護度が高くなると住み続けるのが難しくなります。食事や清掃、買い物は自分で行いますし、外出や外泊を自由に行える施設が多いので自由度の高い生活を送れる点がメリットです。

サ高住は新しい施設が多く、広くて綺麗な住宅に比較的低価格で入居できることから人気を集めています。かつて高齢者専用賃貸住宅(高専賃)や高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)といった民間の高齢者向け住宅がありましたが、現在では制度上高専賃、高優賃共にサ高住に組み込まれています。

有料老人ホーム

有料老人ホームは高齢者のための住居で、①入浴、排泄又は食事の介護、②食事の提供、③洗濯、掃除等の家事、④健康管理のいずれかをする事業を行う施設と定義されています。有料老人ホームには介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、健康型有料老人ホームの3種類があります。順番に見ていきましょう。

介護付き有料老人ホーム

介護付き有料老人ホームは介護が必要な65歳以上の高齢者を対象にした施設で、要介護1〜5の認定を受けた要介護者のみが入居できる「介護専用型」と自立・要支援と要介護の方を対象にした「混合型」がありますが、まれに入居時自立を条件とした「自立型」も存在します。

手厚い介護サービスが受けられる他、食事や清掃、洗濯などの生活支援サービス、健康状態を維持・向上させるためのリハビリや機能訓練、レクリエーション・イベントなどのアクティビティなど多彩なサービスが提供されます。介護サービス費は介護度に応じた定額制となっており、入居者の所得によって1〜3割の自己負担額となります。入居金を払うことでその施設を利用できる権利が得られる「利用権方式」を採用しているところが多いです。

住宅型有料老人ホーム

住宅型有料老人ホームは自立から要支援、要介護の方まで幅広く入居する施設です。食事サービスや生活支援、医療機関提携・緊急時対応などの健康管理サービス、安否確認などのサービスが受けられる他、イベントやレクリエーションが充実しており、他の入居者とコミュニケーションを取りながら楽しく生活できる点がメリットです。

介護サービスの提供はないため、介護が必要になった場合には訪問介護や通所介護などの外部サービスを利用することになります。入居条件は施設により異なり、自立のみの受け入れや介護度が高い場合は入所できないケースがあるので注意が必要です。

介護付き有料老人ホームの基準を満たしてはいるが、「特定施設入居者生活介護」の認可数があらかじめ定められている(総量規制)自治体において認可がおりず、止むを得ず住宅型有料老人ホームとして運営しているところもあるので、介護付き有料老人ホームとの線引きは曖昧なものになっています。

健康型有料老人ホーム

健康型有料老人ホームは健康で介護の必要がない、自立した生活が送れる人を対象としています。そのため、介護が必要になったり、認知症を発症してしまった場合は退去が必要になる場合もあります。食事サービスや生活支援、安否確認などのサービスが受けられる他、イベントやサークル活動などのアクティビティが提供されます。

高齢者がシニアライフを楽しむための施設が充実しており、天然温泉やジム、プール、カラオケルーム、麻雀ルームなどを備えているところもあります。健康増進に励みながら毎日を楽しく暮らしたいと考えている方におすすめです。しかし、豊富なサービスを受けられる反面、入居一時金や月額費用が他の老人ホームと比べて高額になることが多いです。

認知症高齢者グループホーム

要支援2以上で原則65歳以上の認知症を持つ高齢者のための施設です。5人から9人程度のユニットを作り、専門職員から介護サービスや機能訓練等を受けながら、入居者同士で料理や洗濯などの家事を分担し、共同生活を送ります。

ユニットを作るのは、認知症の方は新しく出会った人や、新しいものを覚えたり認識したりすることが難しいと言われていることから、いつも見知った顔の中で落ち着いた生活を送れるようにするためです。自分でできることは自分で行うことで自立支援と精神的安定を図り、認知症の進行を遅らせることを目指しています。

住民票を施設に移すことができる他、24時間体制で必要な介護サービスを受けられるメリットがありますが、医療ケアが必要になったり、介護度が高くなった場合、施設によっては退去しなければならない場合があります。

高齢者向け分譲マンション

高齢者向け分譲マンションは介護施設ではなく、富裕層の高齢者をターゲットにしたバリアフリー設計の分譲マンションです。部屋は個人の所有となることから購入後の売却・譲渡・賃貸・相続などを自由に行うことができ、室内のリフォームも可能です。家事援助サービスが受けられる他、食事の提供、緊急時対応、見守りなどサービス内容は多岐に渡ります。

また、施設の設備も充実しており、フィットネスジムや温泉、レストラン、カフェバー、アトリエ、茶室など様々な工夫が施され、マンションごとに特徴を出しているようです。介護が必要になった場合は外部の在宅サービスを利用します。自己の資産なので、身体状況により退去を迫られることはありませんが、介護度が高くなったり、認知症の進行が進んだりすると住み続けるのが難しくなる場合もあります。同様に、隣人が認知症発症などで問題が起こったりしても退去させることができません。

まとめ

介護職員の働く場所として最も多い割合を占める介護施設。介護施設は大きく2つに分けると公的施設と民間施設に分けられ、受け入れ可能な介護度や高齢者のニーズ別に11種類存在し、また施設の機能によってさらに分化していくことが分かりました。基本的な性格や施設の定義は同じですが、最近はどこも特色を出すために様々なサービスを展開しており、施設が果たすべき役割の線引きが曖昧になっているところもあります。

施設によって重視されるサービスや介護・医療ケアのレベルは異なってくるので、各施設の特徴をよく理解した上で、自分の強みを最大限生かせそうな勤務先を見つけましょう。介護施設は日本全国に存在し、施設の数だけ特徴があります。また、介護士は働く場所や働く時間をワークライフバランスに合わせて設計できる、比較的自由度が高い職業です。しっかり探せば必ずあなたにぴったりの職場が見つかるはず。本記事が職場探しや介護の勉強のお役に立てたのなら幸いです。