高齢化が進む日本において、介護業界はかつてないほどの売り手市場となり、今後も需要が確実視される職業のうちの一つです。慢性的な人手不足も相まって、一般的に「転職適齢期」と言われるような年齢制限もなく、就職・転職の参入ハードルが低い業界と言われています。

このことは派遣サービス大手のトライトグループが2020年に発表した転職動向レポートから読み取ることができ、コロナ禍での雇用不安から介護職への転職を考えている、もしくは半年以内に介護職へ転職した人のうち、7割が異業種からの転職でサービス業・主婦等の流入が目立ったことが同レポートで報告されています。

介護職は学歴よりも資格や実務経験が重視される、いわば実力主義の世界です。つまり、これからの頑張り次第でいくらでも上を目指すことができ、今までの実績に自信がない方や、セカンドキャリアで新たなスタートを切りたい方に打ってつけの職業であると言えます。

今回は介護職のキャリアアップに欠かせない資格について、仕事を始める上で必要な資格や取得方法について詳しく見ていきたいと思います。本記事がこれから介護士を目指そうと考えている方のキャリア形成の参考になれば幸いです。

そもそも介護士の仕事って資格がないとできないの?

「介護の仕事は、介護士の資格がないとできない」と思っている方も、多いようです。結論を言えば、介護職は介護士の資格がなくてもできます。

介護職員を募集している施設の中には、「未経験OK」「資格不要」として人を募っているところも、少なくありません。介護業界は慢性的な人手不足であるため、経験や資格の有無ばかりを重視するのではなく、未来の介護職員の育成にも力を入れています。

しかし資格があることで、仕事の範囲が広がるのは事実です。

介護の仕事は大きく分けて2種類に分類できます。日常生活に伴う家事や炊事を行う「生活援助」と、入浴や排泄、着替えの手伝いなど体に触れないとサポートできない「身体介護」です。このうち、身体介護は資格がないとできません。

また、資格があると働き口も増えます。任せられる仕事が増える分、給与も高くなりやすい傾向です。

このように、介護職において資格はなくてもできますが、あった方が給与アップややりがいの実感などを得られるでしょう。

主要な介護資格一覧

介護職に関わる資格は、多くあります。

その中でも、介護現場でよく目にする機会も多く実用性のある資格が、下記の図に書かれたものです。

介護資格の基本である介護職員初任者研修から順に、難易度・専門性が上がっていきます。実務経験を積みながら最終的にケアマネージャーを目指すのが、おすすめの流れです。

ケアマネージャーに辿りつくまでに獲得できるそれぞれの資格がどのような役割を持っているのか、資格獲得のためにかかるおおよその時間なども知り、ケアマネージャーになるまでのビジョンを作ってみましょう。

介護職員初任者研修

介護職員初任者研修は、介護資格の入り口ともいえます。介護の基本的な理念や体の動かし方、高齢者の生活では何が必要か、などの知識を得られる資格です。

2013年4月以前までは「ホームヘルパー2級」と呼ばれていました。介護職員初任者研修と名前を変えると同時に、施設での実習が必修から外されるといった、資格獲得の条件も変更されています。実習がなくなった分、ホームヘルパー2級の頃よりも必修受講時間が増加しており、約130時間の座学が必須です。また、必修科目に『認知症の理解』が含まれるようになりました。

 
修了後は筆記・実技テストを受け、合格しなくてはなりません。とはいえ、講義もテストも全体的に難しい内容ではなく、正しく取り組んでいれば一発合格も難しくないでしょう。

正社員になるためには初任者研修所持が必須であることも多いため、介護職を始めたらまず取っておきたい資格です。

介護福祉士実務者研修

介護福祉士実務者研修とは、介護職員初任者研修の上位互換の資格です。

介護職員初任者研修よりも多岐に渡った業務を行えます。たとえば、訪問介護サービスの計画作成といった利用者の家族と関わる仕事や、現場職員への指示出し、事務作業などが、介護福祉士実務者研修取得者に任される仕事です。

介護職員初任者研修が130時間の座学に対し、介護福祉士実務者研修は450時間の受講が必要です。3倍以上の時間をかけて、介護職員初任者研修よりも専門的な内容を学びます。また、介護福祉士実務者研修の獲得は、この次の段階である介護福祉士試験の受験資格でもあります。キャリアアップを目指すのであれば、なくてはならない資格といえるでしょう。

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介護福祉士実務者研修は、介護職員初任者研修を獲得していなくても受講可能です。そのため、いきなり介護福祉士実務者研修を受験する方も多くいます。ただし、介護福祉士実務者研修で学ぶ内容は、ある程度の介護知識や実体験があることを前提にしたものです。

介護職初心者の方であれば、介護職員初任者研修→介護福祉士実務者研修といったふうに、段階的に受講したほうがスムーズです。

介護福祉士(国家資格)

介護福祉士は、国家資格です。食事や排泄、介助といった現場での生活援助・身体介護を行うだけでなく、利用者とその家族との面談、介護現場の統括といった、介護に関わる仕事全般を請け負うリーダーの立場となって活躍します。

また雇用側からしても国家資格所有者は安心して仕事を任せられる存在です。そのため採用時に有利になったり、給与アップにも繋がりやすかったりする資格だといえます。実際に、厚生労働省による「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」によると、介護福祉士実務者研修と介護福祉士の平均月給には、2万5,000円以上の差があることがわかります。

介護福祉士のおもな受験資格は「介護福祉士実務者研修」に合格していること、さらに3年以上の介護現場での勤務が条件です。

働きながらキャリアアップを目指したい方は、介護福祉士の資格獲得までは、最低でも3年は働かなくてはならないことを念頭に置いておきましょう。

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介護福祉士の上位互換に「認定介護福祉士」という資格があります。こちらは民間資格ですが、介護福祉士として6年以上の実務経験と600時間の講義を修了することで、受験資格が与えられます。施設・事業所にもよりますが、介護福祉士よりもマネージメントや人材育成といったバックオフィスにまわる機会の多い資格です。次の段階であるケアマネージャーの前に、もうワンステップ進んでおきたい方は、受講を検討してみてください。

ケアマネージャー(介護支援専門員)

ケアマネージャーとは、ケアプラン(サービス計画書)の作成や介護保険サービスの相談といった、利用者に必要なサービスを総合的にプランニングをするための資格です。

利用者の今を見るだけでなく、将来的に必要なサポートや家族の状態なども含めたケアをします。そのため介護の現場や利用者の気持ち、金銭面など、介護に関わるありとあらゆることを把握しているのが、ケアマネージャーです。介護現場で従事し利用者とその家族を助けてきた方であれば、いずれは辿り着いておきたい資格だといえます。

ケアマネージャーの受験資格は、定められた保険・医療・福祉に基づいた業務を5年以上・900日以上行っている必要があります。条件が満たされている場合、「介護支援専門員実務研修受講試験」を受け、合格をすれば資格獲得です。

ケアマネージャーになるのは簡単ではありませんが、介護資格の中でもトップレベルの高額所得がかなう資格です。厚生労働省による「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」によると、ケアマネージャーの平均月収は無資格に比べて8万円以上高く、看護職員と同等レベルの金額を獲得できます。

将来は家族を持ちたい、いざというときの転職のハードルを下げておきたい、と考えるのであれば獲得をおすすめします。

+αで取得したいスキルアップの介護資格

ここまでご紹介したのは、介護現場では一般的な資格です。ここからは持っていると仕事の幅が広がったり、利用者のQOL向上に役立ったりする、実用的な資格についてご紹介します。

喀痰吸引等研修(かくたんきゅういんとうけんしゅう)

介護福祉士になったあとに、取得しておきたい資格です。

喀痰吸引等研修(かくたんきゅういんとうけんしゅう)を持っていると、たんの吸引処置を行えます。高齢になると痰を吐き出すことができず、息が苦しくなったり、最悪生死に関わったりすることもあります。痰の吸引を行うことで利用者の呼吸負担を減らし、快適性と安全を保てます。

資格獲得までに必要な講義は50時間、実習は口腔内・鼻腔内などで実施回数が異なります。

レクリエーション介護士

介護施設・事業所では、利用者に向けてさまざまなレクリエーションを行います。

レクリエーションは利用者にとって、楽しい時間であるとともに心身の健康を保つためのものです。マンネリ化したり、効果の薄いレクリエーションにならないよう、プランや内容を練らなくてはいけません。

そこで、充実性があり、より利用者が意欲的に取り組めるレクリエーションを生み出すのが、レクリエーション介護士の仕事です。

レクリエーション介護士の資格を獲得するには、講座の受講と筆記試験が必要です。受講は通学なら2日ほど、通信講座であれば3か月ほどで修了します。

ガイドヘルパー

ガイドヘルパーの正式名称は「移動介護従事者」です。視覚や身体・精神に障害があったり1人での外出が困難だったりする利用者に付いて、安全な移動ができるようサポートします。

外出は利用者にとって、とても刺激的です。リフレッシュができる反面、不安や恐怖も抱えています。ガイドヘルパーがそばにつくことで利用者が安心して外出できれば、屋内では実感できないさまざまな良い効果を、積極的に得られるでしょう。

ガイドヘルパーの資格は、全身性障害者・視覚障害者・知的障害者向けの3種類です。それぞれ受講内容が異なりますが、いずれも20時間ほどの講習で獲得できます。

介護予防運動指導員

歳を重ねたり、体が不自由になれば誰であれ介護が必要です。しかしQOLを維持するためにも、なるべく自力で生活をしたいと考えるでしょう。

介護予防運動指導員は、要介護にならないように、体の動くうちにトレーニングや運動面の指導をする役割を持った資格です。つまり、サポートする対象は要介護者ではなく、健常者になります。そのため活躍する場は介護現場だけではなく、スポーツクラブといった体を動かす場所でも、重宝される存在です。

資格獲得は初任者研修修了、介護福祉士やケアマネージャーなどの有資格者であることが条件です。31.5時間の講習を終えると獲得できます。

介護士に必要な資格はどうやって勉強したらいいの?

介護士になるのであれば、資格は持っていたほうが何かと便利です。仕事の幅も広がり、給与面にも影響が出てきます。

しかし必要な資格を獲得するには、実習や勉強が必須。すでに資格を持っている人たちは、どのように勉強をしてきたのでしょうか。

介護士に必要な資格を取るには、「福祉系の学校に通う」「働きながら勉強する」の2通りの方法が、堅実です。

福祉系の学校に通う場合

時間をかけずに資格獲得を目指すのであれば、福祉系の学校に通うのがおすすめ。ケアマネージャーや介護福祉士などは、実務経験が5年〜6年以上必要とされています。しかし福祉系の学校に通えば、最短2年の修学で受験資格が獲得可能です。

福祉系の学校は、高校・特例高校や大学・短大・専門学校などがあります。しかし予算がかかってしまうのと2年間は学生として拘束されてしまう、というデメリットもあるため、強い意思がないと踏み出しにくいかもしれません。

働きながら勉強する場合

働きながら実務経験を増やし、受講資格を獲得するのも良い方法です。実際の現場と関わりながら勉強ができるため、座学のみで学ぶよりも介護への理解が深まります。また、働いている間は収入も得られるため、プライベートを充実させられるのもメリットです。

介護資格の勉強方法で迷っている方は、ひとまず働きながら勉強をしてみるのをおすすめします。働いた上で「自分には合っていない勉強方法だ」と思ったのであれば、途中で学校に通うという選択肢を選んでみても、良いのではないでしょうか。

まずは介護職員初任者研修を取得しよう!

介護資格はいろいろありますが、まずは働きながら介護職員初任者研修から取得してみるのがおすすめです。

介護で必要なのは知識だけではありません。利用者を思いやる心や、周りをよく見る能力も欠かせないものです。介護職員初任者研修の勉強で知識をつけて、働きながら想像力や観察力を育てることで、良い介護職員となれるでしょう。

少しずつスキルアップを繰り返し最終的にはケアマネージャーを目指して、利用者とのより深い関わりによる充実感と満足いく給与を獲得してください。